ニューヨーク大洪水

■デイ・アフター・トゥモロー■

今年(2004年)はいつになく台風の被害が大きくて,犠牲者もたくさん出た。日本だけでなく世界中でハリケーンや洪水が多発して「どうもなんか変だぞ」と不安を覚える人も少なくなかったと思う。

そんなときにデザスター・ムービー(災害映画とでも言おうか)なんかで喜んでいるのは不謹慎だぞと内心ささやく声も聞こえるのだが,まあ,フィクションはフィクションとして楽しませてもらいたい。ローランド・エメリッヒ監督の「デイ・アフター・トゥモロー」はハリウッドならではの豪勢な大パニック映画であった。

地球温暖化の影響が環境の限界点を超え,世界が一気に気象大変動に襲われるというお話なのだが,理屈はともかくすごい映像でぐいぐい押してくる正統派ハリウッド大娯楽作品だ。この監督は本当に大状況が好きなんだねえ。

とっとことっとこ話が進むので,正直なところ大味な作品だと思うのだが,実はこの手の演出家は意外と貴重だ。というのも,こういった物語ではまず巨大な危機的状況そのものが主役なのでどうやってそれに立ち向かうかという一点に注力すべきなのだが,とかく凡庸な作り手は下手な人間ドラマを持ち込みたがる。その結果だらだらいらいらとテンションは上がらず,観客はストレスがたまる。

愚かな小悪党がつまらぬ欲やこだわりで主人公たちの奮闘を妨害し,観客たちは「そんなコトしてる場合じゃねえだろ,早く,早く事態の重大さに気付けよ〜」とフラストレーションに身もだえする。それが演出上の計算であるならともかく,たいていは単なるヘタクソだからそういうことになる。

そこへいくとこの映画は大状況映画の王道というか,まずパニックありきという割り切りが気持ちいい。娯楽映画だからね,多少のドラマはもちろんあるけど,それがストレスを生むほど停滞することはない。その分コクがないと言えるにしても,そもそもそういうものは別の映画に求めるべきなのだ。

とにかく映像の迫力がすべてという作品である。CGその他いろいろ最先端技術が使われているのだろうが,これだけのものを見せてくれたらひとときの娯楽としては十分だ。特にすごいのは大津波がニューヨークを襲う場面。ここはリキ入ってるねえ。

ご覧になった方ならお分かりのとおり,ここは同じ監督の「インデペンデンス・デイ」の中の炎の壁が襲ってくるシーンをそのまま水に変えただけじゃん,というツッコミもできる。できるけれどもこのあっぱれな映像の出来なら僕は支持してあげたいな。

DVDではチャプター14。クオータービューの大画面の使い方が上手いね。CGのクオリティもすごいけど,この自然でリアルな合成の迫力はたいしたもんだ。あと,クライマックスの超低温寒波との競争もハラハラさせていかにもハリウッド的な展開。上から急速に凍りついていくスピード感と構図の面白さでそちらも見どころだと思う。こういう映画は迫力ある絵をどれだけ見せてくれるかが命。その意味でこのハッタリ具合が僕はたいへん気に入った。

ひとつだけ言わせてもらうなら「狼を悪役にしないでくれ〜」だ。僕はウルフガイ以来の狼ファンなのだ。

デイ・アフター・トゥモロー FXBA-26503
発売元(株)20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン